本研究は、ポジトロン核種で標識された各種の代謝製剤により、生体内におけるがんの挙動を病態生理学的に解明することにより、その代謝異常の機構を明らかにする一方で、その成果を踏まえて、がんに特異的に集積する新しいがん親和性標識化合物を開発し、ポジトロン核種やシングルフォトン核種による標識法の確立が目的である。2年目をむかえた本年度は、昭和59年度の基礎的成果を更に発展させて、各種の標識化合物の迅速かつ安定した合成法の確立に向けた研究が行われた。特に、【^(11)C】-モノヨード酢酸、【^(11)C】-グルコース、【^(18)F】-デオキシフルオロフコース、【^(11)C】-ピルビン酸などの合成法が確立され、基礎的な動物実験および一部で臨床応用が進められた。その結果、従来より用いられていた【^(18)F】-フルオロデオキシグルコースに加えて、これらの標識化合物でも高い腫瘍集積性が確認された。一方、 【^(99m)Tc】錯体の腫瘍集積については、昨年度の研究で血中での希釈効果が重要な意義を有することが確認されたが、本年度の研究では更に、5価TcアニオンTc【O(^(3-)_4)】のリン酸様挙動が強く示唆されるデータが得られている。 これらの放射性標識化合物を用いた臨床検討も進められ、腫瘍の代謝評価に関する基礎的データが集められた。その1つは【^(11)C】-メチオニンによる蛋白合成の評価である。腫瘍への強い集積が確認されたが、腫瘍局所への集積は血流と強い相関が認められ、血流依存性の高いことが示された。昨年度より続けられている【^(18)F】-フルオロデオキシグルコースによる腫瘍の糖代謝については、脳腫瘍の再発と放射線壊死の鑑別に臨床的有用性が確認された。今後、これらの標識化合物の腫瘍集積について、血流、膜透過、酵素反応といった各ステップを分離して評価することにより、腫瘍の性状についての詳細な検討が可能になるものと期待される。
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