哺乳類の個体から分離した初期細胞とそれを継代培養してえられる不死化株の中から、がん遺伝子を含むDNAを感染したときにいろいろとちがった"試験管内発がん"特性を示す細胞株を分離し、がん化の多段階説の検証と新しいがん遺伝子の分離に役立てたい。 1.ゴールデンハムスター:胎児由来の初期細胞は不死化していないが、rasとmycの混合感染でがん化をおこす。その際15番目の染色体を1本欠くものががん化を起こしやすい。不死化株で増殖速度の早いものは、がん化感受性が高くras単独感染でも容易にがん化した。増殖速度のおそい不死化株は、rasとmycの混合感染でもがん化しなくなった。 2.マウス:BALB/c系統の胎児由来の細胞は容易に不死化し、ras単独でわずかにがん化し、mycを混合するとがん化率が激増した。 3.不死化関連の遺伝子:myc遺伝子の転写はシクロヘキシミド投与で大きく活性化され、その転写RNAの失活も阻害されるため、転写RNA量が2けたも激増する。ヒトのIL-2受容体のcDNAを感染したマウス細胞の表面に、ヒトIL-2受容体を恒常的に発現している株をつくるのに成功した。このような受容体の恒常的発現はヒト成人性T細胞白血病の特性であるが、この人工的につくった細胞はIL-2なしには自律的増殖能を示さなかった。細胞のがん化のためには、少くともあと1つの要因が必要である。 4.ショウジョウバエの遺伝子由来のがん:劣性脳腫瘍遺伝子のホモ接合幼虫の脳は100%腫瘍化している。このときの腫瘍細胞は外見は正常であるが、成虫ハエの腹腔という異所に移植すると、1代で染色体の異常が多発し、継代を続けるとレトロウィルス様粒子の異常発現と、そのプロトウィルス遺伝子の増巾がおこった。
|