研究概要 |
胚性腫瘍細胞の接着機構について研究が進展した。細胞間接着因子である分子量12.4万の糖タンパク質カドヘリンEのN末端アミノ配配列25ケが決定され、その遺伝子クローニングが進行中である。また、この細胞から一段階分化した近位内胚葉の接着因子カドヘリンPが新たに同定された。この2つのカドヘリン分子は胚発生の過程で秩序立った消長を繰り返すことも判明した。細胞と基質の接着については、分子量12.5万の糖タンパク質(GP125)が同定されたが、λgtll発現ベクターを用いて、この遺伝子クローニングが行われ、陽性クローンが得られた。また、モノクローナル抗体を用いた解析により、Fucα1→3(Galβ1→4)GlcNAc構造も胚性腫瘍細胞のクローンF9の基質との接着に関与することも強く示唆された。より詳しい解析を行うべく、この糖鎖の合成を司どるフコース転移酵素がF9細胞から精製された。精製酵素は分子量6.5万のタンパク質であり、これに対してのモノクローナル抗体が作成された。発現ベクターを用いてのフコース転移酵素の遺伝子クローニングが進行中である。いっぽう、ヒト胚性腫瘍の患者血清中に特異的に出現する抗腫瘍抗体の決定基はGalα1→3(Galα1→6)Galと同定された。胚性未分化細胞へ遺伝子を導入し、これを胚盤胞へ注入してキメラマウスを作らせ、トランスジェニックマウスを作成する手法も確立され、この手法でヘルペスのリボヌクレオチドレダターゼ(突然変異を誘起する)やmyc,ras癌遺伝子を導入されたマウスが作られた。この他に、以下の研究が成果をあげた。1)胚性腫瘍細胞から軟骨細胞への分化の中間段階の同定。2)アセチルコリンレセプターのポンプ部分の機能発現に必要な構造の同定。3)ヒト胚性腫瘍細胞上の新たな抗原マーカー。4)精巣性テラドカルシノーマの幹細胞からのキメラマウス作成。
|