癌という病気が人体にとって重篤な障害を引きおこしてくるのには、発癌という現象に引き続く癌の進展(Progression)が極めて重要なプロセスとなっていることが最近ますます明確となってきた。つまり細胞がイニシェーションを受けプロモーションを受けて癌細胞となっても、直ちに癌という病気を起してくるのではない。多くの場合、このあと極めて長い癌進展の時期が続くと考えられる。しかもこの進展の速度は極めて変異に富むらしい。時には、この期間が比較的短く、癌が急激に末期に突入する場合もある、と考えるひとも少くない。 しかし、この進展が何によって制禦され、その速さがどのようにして定ってくるものであるか、現在では全く不明である。この問題を解明することは、癌の予防や予防的制圧を考えるうに重な意味をもってくるであろうと予想される。癌の進展を人為的に制禦してその速度を低下させることができれば、完全治療には至らずとも、癌によって人が苦しむことを防止できるのである。また、進展を促進している因子を除去あるいは抑制することは癌の予防的治療を可能とする。 藤田(晢)と藤田(尚)はヒトおよび実験イヌ胃癌の早期印環細胞癌を対象とし、低浸潤型と高浸潤型の癌細胞と間質を電顕オートラジオグラフィ、電顕組織化学、蛍光DNA定量法でしらべ低浸潤型では非癌例と類似するのに対し高浸潤型スキルスでは癌細胞と間質細胞の形質膜接着による特異的なメカニズムが出現していること、これはDNAの3Cへの変化と高い相関のあることを明かにした。田代と村田はこの接着の分子機構を明にするためガラクトシルトランスフェラーゼの抗体を用いるアプローチをとりあげその癌細胞における局在をしらべた。深町はヒト大腸癌のin vitroモデルで浸潤のメカニズムを分析し中村はex vivoオートラジオグラフィを案出してヒト材料について発癌に到る腸上皮化生の動態を研究し土橋は血管系の関与を分析した。
|