研究概要 |
マウス腫瘍を用いる抗癌剤スクリーニング系の臨床効果予見性を改善するには、マウスの糸と臨床の系との間でしばしばみられる抗腫瘍効果のギャップが何に起因するかを解析しておくことがまず重要である。本研究は次の二つの側面からこの問題に検討を加えた。 第一に、マウス腫瘍とヒト腫瘍の薬剤感受性の間に大きな違いがあるか否かを、共通の宿主としてヌードマウスを用いたIn Vivo実験、培養細胞を用いたIn Vitro実験により比較検討した。その結果、両腫瘍群とも、一つの抗関剤に対する感受性には大きな広がりがあるが、その範囲は、全体としてほぼ重なり合っているという意味で、両者間には大きな薬剤感受性の差異はないと結論した。 第二に、マウスとヒトにおける抗癌剤の投与量および体内動態の違いに基づき、それぞれの体内で「腫瘍がさらされる薬剤濃度」に違いがあるか否かを検討した。まず、速度論的解析から、この違いは血中で非結合状態で存在する薬剤の濃度により比較できることを明らかにした。また、比較の方法としては、抗癌剤の殺細胞効果が濃度-時間曲線下面積(AUC)と相関する場合は、これによる比較が最も適切であると考えられた。今回比較を行った4剤の中でこれに属するのはmitomycin(MMC)とadriamycin(ADR)であり、cisplatin(DDP)も、あるいは比較的短時間の範囲では5-fluorouracil(5FU)もこれに属するものと推定し得るがそれを証明する実験がまだない。 ここでは仮に4剤ともその血中AUCより、各治療量を投与されたときの「腫瘍がさらされる薬剤濃度」を比較すると、MMCでは5倍もマウスで高く、ADR,DDPでは多少マウスで低く、5FUの場合には1/5もマウスで低くなっている。この事実は、腫瘍自体に対する作用には差がない場合でも、ヒトに比してマウスで過大にまたは過小にその抗腫瘍効果を評価する可能性のあることを強く示唆している、
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