本研究では発がんの初期過程であるDNA損傷が終局的には個体の中でどのように発現するかを明らかにすることを目的とし、初年度において次のような成果を得た。 1)新しいタイプのDNA塩基損傷として8・OHグアニンが電離放射線で照射されたDNAに見出され、さらにマウス肝のDNAにも70Krad照射で【10^4】塩基に1ヶの割合で生じることが見出された(葛西、田ノ岡) 2).アルキル化DNA損傷の修復構造を欠損する線出の突然変異を見出した(宗像)、またアルキル化DNA損傷の修復活性が個体内の臓器によって異なることを見出した(許) 3)除去修復能を欠損するひとの色素性乾皮症(XP)A群細胞に欠損する遺伝子のクローニングを目標として、培養XP細胞にカルシウム法により正常マウスのDNAをとりこませ紫外線高感性が低くなったクローンを2ヶ単離し、このクローンのDNAに確かにマウスDNAがくみこまれていることを確認した。この研究はさらにひとの修復遺伝子のクローニングへとすすめられている(田中) 4)がん化しやすい培養細胞AC【II】株や、高発がん性のひと遺伝病色素性乾皮症、アタキシアテランジェクタシア、ファンコーニ貧血病の細胞についてDNA修復能の異常をみたが、色素性乾皮症についてのみ修復能の低下がみられ、他については異常がみられなかった(武部)。 5)放射線誘発マウス胸腺リンパ腫および骨髄性白血病が、PQKモザイクマウスの使用によって單一細胞のクローンであることが示され、さらに後者の中には起源細胞が多分化能を有することが示された(平嶋)。 6)放射線誘発胸腺腫の発生起源の探索のためにThy1・2マーカーを有するコンジェニックマウス(BIO・Thy1・2)を開発し、このマーカーを利用して照射したマウスに移植した骨髄から腫瘍が発生することをまず確認した。さらに腫瘍発生の時間経過の観察へとすすめられている(佐渡)。
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