研究概要 |
我々は外来性シグナルによって活性化される細胞膜での応答がグアニンヌクレオチド結合タンパク質(Gs,Gi,Goおよびtransducin)によってmodulateされること、発癌型ras遺伝子産物のGTPase活性は正常型に比べ著しく低下していることなどに着目し、細胞増殖因子によるシグナル伝達過程におけるras遺伝子の機能を解析することを目的に研究をすすめてきた。このために細胞遺伝学的な手法によるras遺伝子の側からのアプローチと、生化学的手法によるrasタンパク質の側からのアプローチとを試みた。すなわち、(1)ラット胚由来の線繊芽細胞に、マウス乳ガンウイルスプロモーターを結合したras遺伝子を選択マーカーであるネオマイシン耐性遺伝子とともに、ポリブレン-DMSO法によって導入した。約70個のネオマイシン耐性の細胞株を得、これからさらにステロイドホルモンによって可逆的にトランスフォームする細胞株を単離した。この細胞株はステロイドホルモン存在下においてのみ軟寒天培地中でコロニーを形成する。単層培養ではステロイドホルモンにより増殖速度、飽和密度ともに増大した。増殖因子に対する要求性の変化を調べ、その因子からの細胞内へのシグナル伝達の変化を測定することは今後の課題である。(2)ヒトHa-ras遺伝子(発癌型および正常型)を大腸菌での発現ベクターを用いて発現誘導し、その産物を大量に調製した。ras遺伝子は入ファージ由来のC【II】遺伝子とのfused geneとして転写され、ras本来のN末端にさらに16アミノ酸残基が付加されている。大腸菌で発現された真核細胞遺伝子の産物は不溶性画分に分配されることがしばしばみうけられるが、我々のras遺伝子産物は可溶性画分から回収された。酵素化学的レベルでの正常型および発癌型rasタンパク質の諸性質の差異の検討、ras タンパク質と相互作用するmammalan細胞の形質膜タンパク質の検策などは今後の重要な課題である。
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