本研究の課題は1)我々がブタ脳から精製したジアシルグリセロールキナーゼに対する単クロン抗体を調製し、2)腫瘍ウイルス感染細胞を用いてキナーゼ蛋白の免疫学的検討を行う事である。今年度は単クロン抗体の調製と、併行して抗キナーゼ家兎抗体を用いてブタ脳の酵素について免疫学的検討を行った。 1)単クロン抗体調製とRNA-腫瘍ウイルス感染細胞での検討(魅発表)。 マウスを精製キナーゼで免疫後常法により融合細胞を得、ELISAの方法でスクリーニングし現在5個のクロンを得て検討中である。抗体調製とその同定が手間取り、細胞レベルの検討に至っていない。調製済みの家兎抗体は、実験系としてのニワトリ胎児。ラット由来のfibroblaslsのキナーゼと交差性が弱く実験に用いられなかった。 2)家兎抗体を用いたブタ脳キナーゼの免疫学的検討(J.Biol.Chem.in press)。 初めて免疫学的、組織免疫学的検討を加え成果を得た。細胞上清と膜画分(シナプトソーム、ミクロソーム)に同じキナーゼ蛋白が存在する事、交叉性と組織染色により、組織・細胞によりキナーゼ蛋白の免疫学的多様性が存在する事、先に我々が精製したキナーゼはニューロン由来である事、sn-2型のモノアシルグリセロールのリン酸化も同一酵素が触媒する事等を証明した。 3)ジアシルグリセロールキナーゼはリン酸化蛋白である(論文執筆中) 脳より部分精製した酵素標品中にキナーゼをリン酸化する内因性のprotein kinaseが存在する事を発見した。ジアシルグリセロールキナーゼは自己リン酸化を触媒しない。このprotein kinaseはキナーゼのセリン残基をリン酸化し、サイクリックヌクレオチドや【Ca^(2+)】に依存しない。至適pHは5.5で、Km for ATPは10μMである。リン脂質合成酵素として初めて酵素蛋白のリン酸化現象を証明した。今後発癌細胞、神経細胞でのキナーゼのリン酸化の意義を検討する。
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