私共は浮腫性脳病巣では、細胞外間隙が生じ、そこが浮腫液に満たされ、その中でアストロサイトが分裂し、移動することなどをみたが、それは胎児脳のメカニズムの再現であるとも考えられた。また、腫瘍の治療を最も困難にする腫瘍細胞浸潤という病態にも、これに近い機序がある可能性を推測し、本研究で腫瘍細胞の移動と細胞外液等との関連から、腫瘍の進展を阻止する条件を求めようとした。 1.ヒトと動物胎児脳の観察で胎児脳には広大な細胞外間隙があり、その中に血清とほぼ同性状の液体が存在し、それは脈絡叢に由来する。 2.胎児脳細胞外液はアルブミン、α-フェト蛋白等をもつ。 3.胎児脳内細胞の移動運動の生きている脳組織内での観察(落射蛍光顕微鏡ムービー):母獣血清中に胎児脳割断面を落射蛍光顕微鏡下におき、映画が撮影された。試行錯誤と広範な努力の末、神経芽細胞が大脳皮質に活発に移動するのをキャッチした。 4.各種ヒト膠腫を株化しその移植に成功してきたがなお強い浸潤性発育を示す株は残念ながら得られていない。 5.ヒト及び動物膠腫でも常に細胞外間隙がみられ、それは広く細胞外液を充満していた。このことは末梢神経でも同様であった。 6.胎児の脳内血管進展様式と、その新生血管の特徴は驚く程腫瘍内血管と類同性を示していた。 7.腫瘍細胞の移動運動の組織内観察だけは、なを成功していない。強い浸潤性発育を示す実験腫瘍が、なを入手できない為である。 8.細胞外液が腫瘍細胞の分裂に与える影響を比較検討した。 9.腫瘍細胞が浸潤性発育を来す場合、常に浮腫が随伴する。 末梢神経変性では血管は有窓となり、血液神経関門が開放される。喰細胞と線維芽細胞の接触、発癌物質による胎児脳病変を作り、その清掃機序を喰細胞と細胞外間隙との関連で検討した。
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