ラウス肉腫ウイルスのがん遺伝子(src)産物"p【60^(src)】"は、その遺伝子の塩基配列から導かれたアミノ酸の一次配列が明らかになっているが、その高次構造についてはほとんど研究されておらず、その機能に関しても、タンパク質リン酸化酵素の活性をもつこと以外に明確になったものはない。本研究では、p【60^(src)】の高次構造を構成するドメイン構造を理論的及び実験的に解析し、その中での機能的ドメイン(リン酸化活性部位等)との対応関係を明確にすること、またその際、機能未知のドメイン構造の存在の可能性についても明らかにすることを目的とした。そのためにまず、精製p【60^(src)】を調製し、トリプシンによる限定加水分解を行った。その結果、p【60^(src)】のもつタンパク質リン酸化活性はトリプシン耐性であるのに対し、p【60^(src)】が同時に持っていると考えられていたイノシトールリン脂質をリン酸化する活性はトリプシン感受性であった。これらの活性を担うドメインは、再構成脂質膜への結合実験からも別々のポリペプチドに存在していると考えられたので、両者の分離を試みた結果、カゼインアガロースクロマトグラフィーを行うことによって、また、抗血清を用いた免疫沈降法によっても分離可能であることが明らかとなった。一方、コンピューターを用いた理論的構造解析からは、p【60^(src)】のいくつかの構造的特徴が明らかになった。その内の1つは、p【60^(src)】の一次構造上で、すでに知られていたcAMP-依存性タンパク質リン酸化酵素(A-キナーゼ)とのホモロジーを示す領域以外の部位に、いくつかのタンパク質との局所的ホモロジーが見出されたことである。特に、A-キナーゼに次ぐ高いホモロジーを与えるものとして、ケラチン等の中間径線維タンパク質があげられる。抗ケラチン抗体を調製して行った予備的実験から、p【60^(src)】が抗ケラチン抗体と反応するという結果を得たので、現在さらに実験的検証を進めている。
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