多くの腫瘍細胞は、それらの細胞が分化の過程で表現したことのある種々の未分化抗原系を再発現していることは、腫瘍に対する単クロン性抗体による検索によっても明らかにされている。本研究は腫瘍細胞が表現している未分化抗原系に対するT細胞応答機構を解明することによってその生物学的意義や役割を明らかにすることを目的とし今回は、腫瘍の退縮に働くT細胞の主要なエフェクター細胞である細胞障害性T細胞応答について解析した。その結果、A/Jマウス由来のメチルコラントレイン誘発肉腫S1509aで過免疫した同系マウスに誘導される細胞障害性T細胞(CTL)は同系、異系、異種の腫瘍細胞をも破壊するポリクローナルなCTLが誘導された。これらのポリクローナルCTLをH-2KまたはH-2Dあるいはその両方が異なるHaplotypeを持つ標的腫瘍細胞またはMHCの異なる異種の標的腫瘍細胞と種々のcold target cellsを用いることによって、CTLの特異性とそれぞれの細胞表面のPhenotypeを調べた。その結果、H-2KかH-2Dのハプロタイプのいづれか一方が一致した腫瘍細胞に対する細胞障害活性のあるCTLすなわち細胞障害活性にH-2の拘束があるCTLのPhenotypeはThy-【1^+】、Lyt-【1^+】、【2^+】の細胞であるのに対して、H-2の異なる腫瘍細胞に対するCTLのPhenotypeはThy-【1^+】、Lyt-【1^±】、【2^-】の細胞であることが明らかになった。さらにH-2の表現されていないテラトカルチノーマF9細胞で免疫して誘導されてくるCTLは、同系、異系あるいは異種の標的腫瘍細胞をいづれも破壊するCTLが誘導され、そのPhenotypeは、やはりThy-【1^+】、Lyt-【1^+】、【2^-】L3T【4^-】の細胞であった。またこれらのCTLはいづれも同系の13日目の胎児細胞に対する細胞障害活性を示した。さらにこれらの種々のCTLは、自家発生腫瘍担癌マウスの脾細胞をin vitroで同一腫瘍細胞によって再刺激することで誘導されることが確かめられた。以上の事実は腫瘍細胞に対するCTLは、体細胞の未分化抗原の内因性抗原によって形成されたことを示唆している。
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