ヒト大腸癌に発現するUEA-1結合性異常抗原をUEA-1アガロースカラムを用いて抽出し、抗体を作成し、免疫組織学的検索を施行したところ、UEA-1染色に類似した染色結果が得られ、血液型H抗原に関連するUEA-1結合性糖蛋白が癌から分離できることが判明した。一方、H抗原type2鎖に対する単クローン性抗体を用いた検索では、H抗原type2鎖は近位・遠位大腸とも正常粘膜にはほとんど存在しないが、癌に発現するUEA-1結合性糖蛋白の一部にはH抗原type2鎖が含まれていることが確認されると共に、それ以外のフコシル抗原も混在していることが分った。種々の血液型特異的レクチンや単クローン抗体を用いた大腸癌の組織化学的検索において、加水分解処理やシアリダーゼ処理による染色性の変化を検討した結果、大腸粘膜の糖抗原末端における糖鎖構造やシアル酸の結合状況が、正常粘膜・癌隣接粘膜・癌の三者間でかなり異っていることが見出された。大腸癌組織のフコース転移酵素の活性は、シアル酸除去後の血液型ABH関連レクチン染色の総和と相関があったが、ABHに対する単クローン抗体の染色性とは相関がなく、癌においては、純粋なABH抗原以外にもそれらに類似した糖抗原がフコース転移酵素の関与で形成されていると思われた。 大腸以外の臓器におけるレクチンや単クローン抗体による検索で以下のような結果を得た。乳癌においてはABH抗原の出現率が低下する一方、T抗原の出現率が高くなった。食道癌においてはABH抗原の消失が起こる一方、本来のものとは異なった血液型抗原の出現もみられた。子宮体部腺癌や胆嚢癌においては癌におけるPNA結合性糖抗原の発現が特徴的であった。食道や胆嚢の異型上皮ではH抗原関連糖抗原の発現抑制がみられ、癌化の過程において正常抗原の発現抑制が起こり、ついで異常な形質が発現すると考えられた。
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