ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)のX遺伝子からは、HTLV-【I】では41キロダルトン(kd)、HTLV-【II】では38kdのタンパク質(pX)が発現される。pXの構造を調べる目的で、HTLV-【I】感染細胞からpXに対するmRNAを調整し、そのcDNAの塩基配列を決定した。その結果pXのcDNAはプロウイルスゲノムの5′端から5183番目(envの5′側)でスプライスされて7302番目の塩基と結合していることがわかった。このことからHTLV-【I】のpXはX遺伝子内のフレーム【IV】の5′側アミノ酸の最初の5つが除かれ、その代りenvタンパク質のN端のメチオニン残基が結合したMet-Ala-His-‥‥という構造をとることが予想された。HTLV-【II】の場合も同じ領域の塩基配列が保存されているので同様の構造をとると考えられる。またHTLV-【II】の領域には38kdのタンパク質をコードするフレーム(Xc)に重なる形で別のフレーム(Xb)が存在する。このフレームから推定されるペプチドを化学合成し、それに対する抗体を用いてXbフレーム由来のタンパク質をHTLV-【II】感染細胞において同定した。 pXの機能としてはLTRの転写活性を増強する作用があることが示唆されている。それを確かめる目的でHTLV-【I】のX遺伝子を含む断片をマウスメタロチオネインプロモーターの下流に挿入したプラスミドを構築し、これをヒトの細胞株に導入した。この細胞へHTLV-【I】LTRの下流にCAT遺伝子をつないだプラスミドを導入したところpXを発現する細胞ではLTRの転写活性能が促進された。LTR内の転写活性、特にエンハンサー領域を同定した。TATA配列を残してU3領域を殆ど欠失させると転写活性は無くなるが、それにU3領域を戻してやると活性は90%以上回復した。挿入するDNAの方向には無関係であることからこの領域がエンハンサーとして機能し、転写活性にはこの領域の存在が必須である。
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