本研究では昭和59年9月の、いわゆる波岳くずれの解明にかなりのエネルギーを注いだ。御岳くずれによる被害はその物理的規模の割には少なかったが、それは多分に偶然性によるものであり、同種の自然現象による災害を防止するために、御岳くずれの実態を解明することはきわめて重要と考えられる。このような観点から、御岳くずれに関して、できるだけ多様な研究成果を持寄って現地討論会を実施した。 御岳くずれのメカニズムに関しての最大の問題点は、土石の広域流動を可能にしたのは水か空気かということである。この論争を通じて、毎年我国のどこかで起るような規模の土石流に関する研究にもとづく理論と、【10^8】【m^3】程度以上の規模の山体崩壊による岩屑なだれに関する、主として堆積物の調査にもとづく理論の間には、大きなギャップがあることがわかった。しかし、御岳くずれについては、長い距離にわたる土石の流動には水の存在が不可欠であり、水が存在しない場合には、エアクッション効果が起っても、このような規模で0.13程度の低い等価摩擦係数は実現しないであろうことが確認された。しかし、流動土石のかなりの部分が乾いた状態のものであったことも確認された。水で飽和した土石流状の部分と乾いた流れ山状の部分の間の相互関係については、堆積物の詳細な調査にもとづくいくつかの提案がなされたが、未解明、あるいは十分な検証ができない点が残った。 土石の広域流動を伴う山体崩壊の地質・地形条件に関して、外帯の起伏量の大きい山地では流れ盤斜面で発生しやすいことが報告された。 この知見を直ちに一般化することは困難であるが、風化および他の削剥過程との関係を解明して行くことが重要であると考えられる。 本研究で得られた知見を実際の防災に生かす方策についての討議もおこなったが、その結果は王滝村から発行される災害誌の一部として執筆した。
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