麻ひ性貝毒の原因生物であるProtogonyaulax Tamarensisの発生を支配する環境要因を明らかにする目的で、本年度もフィールド調査および培養実験の両面からその解析を行なった。大船渡湾におけるフィールド調査の結果、本年度は本種はほとんど出現せず、4月の末に100cells/l程度発生したにすぎなかった。昨年度は春の異常低温のため発生量が著しく低く、cyst量調査の結果底泥中のcyst量が可成り減少しているのが観察された。従って本年度の低発生はこのことが主な原因であろうと考えられた。過去数年の大船渡湾における水質調査の結果、本湾の中央部付近では本種の発生する時期に中層に栄養塩の濃度極小値をもつ成層が形成されることが判明した。本種はフィールドでは中層から低層にかけて多く出現する。従がって、本種のフィールドでの増殖には栄養塩の過剰摂取や底層における増殖促進物質の存在形態などが多元的に関連しているものと考えられた。次に、培養実験により本種の生長に及ぼす種々の要因を調べた。まず塩分濃度の影響を調べたところ、本種は20〜24%の海水中で最も高い生長速度を示し、フィールドで本種が高密度に分布する範囲よりはるかに広い範囲でよく増殖した。微量金属に対しては、本種は高い感受性を示し、一定濃度を越えると生長が阻害されることが判明した。次に本種を種々の条件下で培養し、生長速度と細胞当りの毒含量を測定し、本種の毒生産能に影響を与える因子を調べた。その結果、本種の毒性は生長速度が遅い程高くなること、温度、塩分濃度に強く影響を受けることが明らかとなった。最後に、大船渡湾より同一時期に分離した多数の分離株を同一条件下で培養して各株の生長速度と毒性を測定したところ、可成り広い範囲でバラツクことが判明した。この事実は同一時期に同一海域に発生するP.tamarensisにおいても毒生産能を含めた形質を異にする種々の株が存在することが明らかになった。
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