「湖沼や河川が酸性化するとどのような生態系に変化するか」という課題に答えるため、屈斜路湖(pH4.2-4.7)、恐山湖(pH3.2-3.6)、裏磐梯酸性湖沼群等の酸性湖沼及び頭無川(pH4.2-4.6)、赤川(pH3.4-4.6)等の酸性河川を調査対象として【◯!1】水生植物の種類と量、【◯!2】水、水生植物、底質の化学組成、【◯!3】水生植物の光合成活性及びN同化活性、【◯!4】微生物組成とその役割等の検討を開始し、本年度は次のような結果を得た。 1.各酸性湖沼及び河川では、水生の植物の中では蘚苔類が量的に最も多く、有機物生産者の主体となっている。酸性水域に分布する蘚苔類の中で代表的な種はDrepanocladus fluitans.Jungermannia vulcanicola.Scapania undulataの3種で、特にD.fluitansは湖沼に多量に分布し、J.vulcanicola及びS.undulataは河川に多い。 2.各酸性水域の水質はいずれも酸性化の原因となっている強酸性温泉水あるいは冷泉が希釈されたものとして理解できる。しかし水生蘚苔類の元素組成を調べると、水中に微量に存在している元素を多量に集積しているものが多く、生物地球化学的な意味での物質循環を考えてゆく上で蘚苔類の寄与は大きい。例えば各酸性水域の水に含まれるPの量は極めて微量であるが、水生蘚苔類の茎葉体中のPは乾重量当り数千ppmである。また恐山湖に分布するD.fluitansはAsを多量に蓄積し、その量は約1000ppmである。 3.各酸性水域に分布する水生蘚苔類の分解に微生物がどのように関与するかを走査型及び透過型電子顕微鏡を用いて調べ、バクテリアが茎葉体を分解している事が明らかとなった。これは新しい発見である。 4.恐山湖では硫酸還元が活発に行なわれ、硫酸から硫化水素が生成し、さらに硫化水素は硫化物に変化している。
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