本研究は、生体における臭いセンサー機構を参考にして、悪臭を検知するための液晶膜を開発することを目的とする。 各種のコレステロール誘導体を混合して液晶膜を作製し、悪臭ガスを与えて色調の変化を観測した。各種作製した膜の中で、n-ノナン酸コレステロールとコレステロールオレイルカーボネートを1:1に混合した膜は、硫化水素により敏感に色応答(緑色から青色に変化した)することがわかった。このような硫化水素ガスに対する応答感度および応答特異性は、用いる脂質の種類および混合比により大きく変化した。そこで臭い物質に対する応答が脂質組成に依存することを系統的に調べるため、より測定の容易なリポソーム系を用いて実験を行った。リポソームの臭いに対する応答は、膜流動性の変化および膜電位変化をモニターする蛍光色素を用いて測定した。大豆から抽出したアゾレクチンで作製したリポソームに臭い物質を与えたところ、嗅細胞の場合と同じ様に脱分極方向の電位変化が観測された。この際、臭い物質により膜流動性の変化も起こっていることがわかった。すなわち、リポソームの場合も、臭い物質により液晶構造が変化することがわかった。つぎに卵黄レシチンでリポソームを作製し、各種臭い物質を与えた。卵黄レシチンリポソームの場合も臭い物質により膜電位変化が起こったが、各臭い物質による膜電位変化の大きさは、大豆アゾレクチンのリポソームの場合よりも小さかった。ただし、膜電位変化はより低濃度の臭い物質により起こった。また、卵黄レシチンに少量のコレステロールを添加すると、ある種の臭い物質に対する応答は増大し、別の臭い物質に対する応答は減少した。コレステロール量を増加させると、いずれの臭い物質に対する応答も減少した。以上の結果を参考にして、脂質組成を系統的に変化させて液晶膜を作製し、臭い物質に対する色応答の測定を行っている。
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