本年度の研究実施計画に従い以下の知見を得た。 1. Zoogloea ramigeraにおけるPHB生産条件の検討: この菌を用いて種々の培養条件を検討した結果、酵母エキス0.1%、アルコール発酵蒸留廃液0.2〜0.4%、廃糖蜜5%を含む培地により、従来のグルコースを大量に用いる培地に比べはるかに安価にほぼ同収率でPHBを得た。 2. PHBの生分解機作の検討: Alcaligenes faecalis【T_1】の分泌するPHBデポリメラーゼの酵素化学的性質を、種々の阻害剤を用いて検討したところ、本酵素の活性中心にはセリン残基が存在し、また活性なコンフォメーションを維持するために、一本のジスルフィド結合が重要な役割を持っていることが明らかとなった。また本酵素は水溶性のオリゴマーも、不溶性のPHBも共に分解するが、PHBのような疎水性基質の分解には、上述の活性中心の他に、基質と疎水的相互作用を示す部位が必要であることも示唆された。さらにこのような疎水性部位は、トリプシン処理により除かれる。分子量約5千のドメイン構造を持っており、PHBと固く結合してその分解に寄与する部位と考えられた。 3. PHBデポリメラーゼ遺伝子のクローニング:(2)の知見をもとに、本酵素の構造をさらに詳しく検討するために酵素遺伝子のクローニングを行った。A.faecalis【T_1】の染色体DNAを部分消化後、発現ベクターpUC8に組み込み、抗体によるスクリーニングの結果、29個の腸性大腸菌クローンを得た。クローニングされたDNA断片はベクターのlacプロモーター側約1キロベースペアを欠いても酵素蛋白の産生が見られたことから、それ自身のプロモーターで転写されていることがわかった。また大腸菌中で発現されたPHBデポリメラーゼがペリプラズム空間に輸送され、その一部は細胞外に分泌されたことから、このクローニングされたDNA断片は構造遺伝子のみならず、分泌蛋白の輸送に関する情報も含んでいることが示唆された。
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