これまでの予備的検討において、水俣病患者の血漿中LDHとaldolase活性が対照群に比べて有意に高く、また両酵素活性の間に高い相関性があることがわかった。本研究では検査対象を拡大し、水俣在住の非水俣病患者や、隣接するT町の住民から多数の血液試料(血漿または血清)を得て、臨床生化学検査を行って来た。 水俣在住の非水俣病患者群として、水俣病以外の疾患で水俣市内のK病院に通院または入院している患者の血漿を採取し、臨床生化学検査を行った。その結果、このK病院で採取した非水俣病患者の試料においても、水俣病患者同様LDHとaldolase活性が高い相関性を有しながら上昇していることが判明した。一方、水俣市に隣接するT町の40才以上の住民(健常者及び水俣病認定患者を含む)から血清を得て臨床生化学検査を行ったところ、水俣病患者の血清中でもLDH及びaldolase活性はほぼ正常範囲であった。 上記のような互いに矛盾した結果が得られた原因として、それぞれの調査時における血液採取、処理方法の違いが反映している可能性や検査対象に何らかの偏りが生じている可能性が考えられた。血液処理方法の違いがLDH及びaldolase活性に与える影響については、健康な成人の血液を用いて検討したところ、その可能性は否定された。現在、T町の住民から再度採取された1000検体以上の血液について検査を行っているところであり、水俣市内の他の医療機関での患者からの血液採取も計画している。また動物実験については、現在われわれの開発した方法により典型的メチル水銀中毒症を発症したマウスが得られており、今後数ヶ月にわたって臨床生化学検査を行う予定である。これらの動物実験でのデータや、より多くの血液試料から得たデータを十分に集積した上で、臨床生化学検査値とメチル水銀汚染との関連を検討したい。
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