感度の高い毒性指標の一つである免疫毒性は、汚染物質の微量長期暴露による生体影響評価の上で注目されているが、その毒性発現には宿主の遺伝的要因の関与が知られている。本研究では、免疫毒性の評価を明確にするため、免疫毒性を示す重金属のモデル物質であるカドミウム(Cd)を取り上げ、免疫毒性の発現に関与する遺伝的要因の解明を試みた。Cdを近交系マウスに反復皮下投与(0.5または1mgCd/Kg、週5日)し、免疫抑制効果(脾リンパ球増殖反応の抑制)と免疫異常亢進効果(抗核抗体の産生)の発現における感受性のマウス系統差を検討した。この結果、マイトゲン等に対する培養脾リンパ球の増殖反応についてみると、Cd投与開始1週間後に、C3H/Heマウスでは他の二系統のマウス(BALB/cとDBA/2)にくらべ顕著な抑制効果が見られた。この機作として、(1)標的である脾リンパ球の増殖反応におけるCd感受性、(2)標的細胞外の因子(標的に到達するCdの有効濃度、必須金属である亜鉛濃度の変動)の関与について、それぞれ系統差を検討した。その結果、C3Hマウスは他の二系統にくらべ血中および脾臓中のCd濃度が有意に高く、反対に肝臓中では低く、これが高感受性要因として関与していることが明らかとなった。C3Hマウスは肝臓でのCd結合タンパク質メタロチオネインの誘導能が低いことから、その遺伝子発現とCd感受性との関連が示唆される。一方、免疫亢進効果としての抗核抗体の出現は、BALBマウスでCd投与開始2週間後から検出された。この2週目の時点で抗核抗体の出現率の系統差を検討したが、上記三系統およびC57BL/bマウスの間では顕著な系統差が見られず、一様に高率に抗核抗体が検出された。これらにより、Cdの免疫抑制効果の発現には顕著な系統差があることから高感受性集団の存在が示唆され、一方、免疫亢進効果は、より共通の機作により広範な集団に発現する可能性が示された。
|