環境空気中の超微粒子は、粗大粒子に較べて、肺内沈着率が高く、発癌に関連した物質を多く含むことや、超LSI等の製造にも大きな影響をおよぼすことなどの理由により、環境科学の分野でも強い関心が寄せられているが、試料採取技術や発癌関連物質等に対する高感度分析技術が十分でないため、その実態はあまり明らかでない。そこで本研究では、室内空気の捕集にも耐えうる低騒音型超微粒子サンプラーの開発を昨年に引続いて行うと共に、当該サンプラーにより得られた微少量の粉じん中の多環芳香族炭化水素やニトロアレーンの高感度分析方法の開発を目的として種々検討を行った。 超微粒子サンプラーに関しては、昨年の成果の上に0.05μmの超微粒子まで13段階に分けて捕集する方法を開発した。また多環芳香族炭化水素の分析に関しても、低温蛍光分光法を中心に検討した結果、粉じん中の有機成分の超音波抽出→液・液分配による中性画分の分取→低温蛍光分光法による同定・定量という簡便な高感度分析法を、発癌性をもつベンゾ(a)ピレンとベンゾ(k)フルオランテンに対して作成した。本法は数【m^3】の空気吸引で得られた微少量の粉じんの分析にも適用可能である。またニトロアレーンに属し変異原性も強い1-ニトロピレン等に対しては、上記の手法により得た中性画分を吸着型高速液体クロマトグラフィーで処理してニトロアレーン画分を分取し、これを還元してアミノピレン等に変換したのち、分配型高速液体クロマトグラフ・分光蛍光光度法で分離分析する手法を作成した。 これらの方法を用いて室内空気中のベンゾ(a)ピレンや1-ニトロピレン等を分析した結果、非喫煙室中の濃度は大気中のそれとほぼ同程度であるが、喫煙室中の濃度は明らかに非喫煙室中のそれより高いこと、これら発癌関連物質の約90%は肺内沈着率の高い微粒子に含まれていることを認めた。
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