1.放射化学的研究(代表者、岩田志郎):トロトラストの主成分であるコロイド状酸化トリウムは600℃以下では化学的に安定で、それが生体内に入っても化学変化を起こさないことを明らかにした。また、それが生体内からほとんど排出されず、肝臓、脾臓に沈着することを剖検試料の中性子放射化分析によって確認した。 2.放射線物理学的研究(分担者、加藤義雄):トロトラストの摂取により生じた生体影響の大部分はトリウムとその娘核種のアルファ線エネルギーによることを明らかにした。また、トリウムの娘核種トロンの呼気中排出量検出器を開発し、トリウム投与量と呼気中トロン量の間の比例関係を見出し、体内トリウム量の簡易測定に成功した。 3.疫学的研究(分担者、森武三郎、秋田康一):トリウム注入量と晩発障害との関係を、トロトラスト血管内注入者に関する疫学的調査で、注入量別に分析することにより明らかにした。すなわち、トリウム注入量の増加は顕著に晩発障害発生上昇を起こすことを証明した。 4.臨床的研究(分担者、杉山始、池崎英文):トリウム投与からの期間と、トロトラスト肝癌発生例数との関係は、最初の症例が出現するまでに10年以上の期間があるが、一度出現しだすとその数は急速に増加することを明らかにした。また、それとともに、注入後30〜50年の発癌では、発癌型式が複雑化し、多重発癌が著しく増加することも明らかにした。 5.病理学的研究(分担者、畠山茂、森亘、中島敏郎):トロトラスト血管内注入者群における末梢リンパ球および骨髓細胞の染色体所見を分析し、その多くに極めて高度の異常が出現しており、出現率は対照群に比して明らかに有意であることを証明した。すなわち、血液細胞の染色体異常と、トリウムの骨髓内持続被曝とは極めて密接な関係があるという所見を見出した。
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