本研究は、金属や半導体の表面における電子過程、界面と分子の相互作用、触媒作用などを、分子工学的見地から解明し、これに基づいて、界面に関連する材料設計に有用な知見を見出すことを目的とする。 特に、本課題では、パラジウムの触媒作用をとりあげ、その水素分子の解離吸着過程と、その触媒作用、ならびにアセチレンの水素化反応において見られる触媒能の電子的過程を理論的に解明し、これによって、触媒設計の指針を得ることを目的とした。 まず、パラジウムクラスターによる水素分子の解離吸着能を理論的に研究した結果、【Pd_2】のように小さなクラスターでも、水素分子を解離吸着する能力をもっていることが示された。この過程には、殆んどエネルギー障壁がなく、表面から1.5Åほど離れた位置で、分子状水素と解離状水素の滑らかな平衡 【H_2】【」!「】H・+H・が見られる。 このように解離吸着した水素分子の活性を調べるため、素にアセチレンを理論的に導入して、水素化反応の触媒活性を調べた。その結果、上に得た吸着水素の活性は極めて高く、自由な水素原子のそれにも匹敵することが示された。このような、パラジウムの高い触媒活性の起源は、Pd上のダングリング・ボンドと電子相関の働きにあることが示された。さらに、アセチレンと吸着水素がパラジウム表面上で反応するLangmuir-Hinshelwood機作についても研究した。このモードとして、2つの水素が同時に付加する一段階機構と、それらが一個づつ反応する二段階機構を考えた。実際、理論的にこのL-H機作がエネルギー的に有利であることが示された。中でも、ビニルラジカルを経由する二段階メカニズムが、反応バリアーが7kcal/molと最小であった。また、これらの研究より、触媒反応の選択性についても、その電子的メカニズムが明快に示された。
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