本研究は、複合構造である超電導マグネットの内部構成材の変形やすべり挙動を正確に解析し、それらから放出エネルギーと熱発生を予測すると共にその大きさを評価し、クウェンチ裕度を正しく求め、機械的擾乱とクウェンチとの関係を解明することを目的とする。本年度は下記の研究を行った。 1.超電導マグネットの内部構成材の変形やすべり挙動を正確に解析できる複合積層構造要素を用いた精度のよい簡便な有限要素法の計算コードを作成した。要素の等価剛性は、要素を構成する各層の剛性より平均化して求め、要素の平均的変形量より各層の変形量を求めた。特に要素を構成する各層は、弾性変形のみならず塑性変形も行うものとし、層間の応力状態がある値に達すると、微小すべり変形が起きるとした。 2.積層構造梁の曲げ試験と数値解析結果の比較を行った。まずステンレス鋼とエポキシ樹脂から成る積層梁の3点曲げ試験を行い、荷重と撓み、歪と撓みの関係を測定すると共に、AEセンサーによりすべり変形を検知した。昨年実測したすべり限界値を用いて、塑性変形も考慮に入れた新しい計算コードで数値解折した結果は、大変形後も実験結果と良好な一致を示した。 3.実機超電導マグネットの複合構造解析を行った。東芝(株)で試作した15テスラ超電導マグネットの内側の【Nb_3】Snコイルに505Aの電流を通した上で外側のNbTiコイルの電流を増してゆく方式で励磁し、十数回のトレーニング後クウェンチした実機実験に対応する数値解析結果は、NbTiコイルに180Aの電流を流したとき【Nb_3】Snコイルの4〜6番目で微小すべりが起こり、244Aで4〜12番目ですべり変形が発生すること等実験結果と一致し、クウェンチ発生の原因となる機械的擾乱の発生の予知が可能となった。
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