将来の核融合炉第一壁材料として有望視されているフェライト・マルテンサイト鋼の14MeV中性子照射効果を模擬する研究の一つとして、核変換により生ずる水素原子と偏位損傷が機械的性質、特に延性脆性遷移温度(DBTT)に及ぼす重疊効果を、ベビーサイクロトロンにより加速された高エネルギープロトンの打込みにより調べた。この際微小試験片を用いる必要があり、小型パンチ試験法をDBTT決定のために開発した。 本年度行った低温におけるプロトン照射によっても、高温の場合と同様な硬度上昇、X線回折線中、内部磁場の局所的増大が見られたが、その深さ分布は狭い。純鉄の場合には硬度上昇のみが認められた。 HT-9鋼の破壊進展抵抗を数値として求め、他の鋼種の実験値と比較した。 小型パンチ試験法により求められた破壊エネルギーを統計処理することにより、HT-9のような鋼種においてもDBTTを充分な精度で推定することが可能になった。プロトン照射によるDBTT遷移は今回の実験條件では認められなかった。 プロトン照射に用いられる30μm厚さの引張り試験片でも結晶粒径を制御すれば引張り強さに関する有意なデータを得られることを明かにした。 高電流のプロトン照射の場合には、照射温度の計測・制御が非常にむずかしい。これを充分な精度で実施するには更に多くの工夫が必要である。
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