動物細胞の細胞分裂機構に関する研究

1987 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 60065005
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 酒井 彦一 東京大学, 理学部, 教授 (80011477)
• 研究分担者: 遠藤 幸子 東京大学, 理学部, 教務職員 ; 前川 昌平 東京大学, 理学部, 助手 (40173695) ; 西田 英介 東京大学, 理学部, 助手 (60143369) ; 室伏 〓 東京大学, 理学部, 助教授 (70101128)
• キーワード: 細胞分裂 / 増殖因子 / プロテインキナーゼ / DNA合成 / 中心体 / 微小管 / 分裂装置 / 輸送モータ

研究概要

1)細胞増殖の引金機構:種々の増殖因子による早い細胞応答として, (1)アクチン系細胞骨格の再配列による波状膜形成と細胞外液の細胞内への取込み, (2)高分子量微小管結合蛋白質を特異的基質とするプロティンキナーゼの一過的活性化, が証明された. (2)のキナーぜは今回新たに見出された酵素で, 微量のCaイオンで活性が抑制される特有な性質をもつ. リン酸化された高分子量微小管結合蛋白は微小管から遊離し, 結果として微小管が脱重合する. 同じく微小管を脱重合させる分裂毒(コルヒチンなど)で培養細胞を処理すると, 増殖因子なしに細胞はDNA合成を行い, 分裂することが新たに発見された. 従って, 今回微小管細胞骨格系が増殖因子によるシグナルトランスダクションの初期過程で構造変化をおこすことが細胞増殖の開始に密接に関与するという概念が確立された. 2)有系分裂の開始機構:微小管形成中である中心体を構成する蛋白, 51K蛋白, の同定と, その分裂装置形成における役割が明確にされた. 特に51K蛋白の抗体を用いた分析結果から, (1)51K蛋白は星状体を形成するための中心的機能を果たす(51K蛋白は星状体の中心に位置する. 抗51K抗体によって星状体形成が完全に阻害される), (2)51K蛋白は細胞が紡錘体を形成する際同じく中心的役割を担う(抗51Kモノクローン抗体の細胞内注入により紡錘体形成が完全に制御される)ことが明らかになった. 3)分裂シグナル:分裂装置から細胞表層に伝達される分裂シグナルの輸送モーターとしてキネシン及び高分子量微小管結合蛋白を想定し, 両者を精製した. キネシンは分子量30万で, 主成分の12万サブユニットに7万, 6.8万, 6.5万の成分がつき, 微小管の存在下でATPase活性が6倍に高まる. 抗キネシン, 抗微小管結合蛋白抗体を用い, 両者てもに分裂細胞の分裂装置に特に局在することを明らかにした. これらの抗体が分裂にどのような効果をもっか注入実験を計画中である.

研究成果

• [文献書誌] T.Kadowaki,S.Koyasu,E.Nishida,K.Tobe,T.Izumi,F.Takaku,H.Sakai,I.Yahara, & M. Kasuga: The Journal of Biological Chemistry. 262. 7342-7350 (1987)
• [文献書誌] T.Akiyama,E.Nishida,J.Ishida,N.Saji,H.Ogawara,M.Hoshi, Y.Miyata, & H. Sakai: The Journal of Biological Chemistry. 261. 15648-15651 (1986)
• [文献書誌] Eisuke Nishida, Kazuko Iida, Naoto Yonezawa, Shigeo Koyasu, Ichiro Yahara, & Hikoichi Sakai: Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 84. 5262-5266 (1987)
• [文献書誌] M.Hoshi, E.Nishida, Y.Miyata, H.Sakai, T.Miyoshi, H.Ogawara, & T.Akiyama: FEBS Lett. (Federation of European Biochemical Societies). 217. 237-241 (1987)
• [文献書誌] T.Kadowaki,M.Kasuga,K.Tobe,F. Takaku,E.Nishida,H.Sakai,S. Koyasu,I.Yahara,K.Toyoshima,T. Yamamoto,T.Akiyama: Biochemical and Biophysical Research Communications. 144. 699-704 (1987)
• [文献書誌] Yasutaka Ohta, Tetsu Akiyama, Eisuke Nishida, & Hikoichi Sakai: FEBS Lett. (Federation of European Biochemical Societies). 222. 305-310 (1987)
• [文献書誌] Shin-ichi Hisanaga, Takeshi Tanaka, Tomoh Masaki, Hikoichi Sakai, Issei Mabuchi, & Yukio Hiramoto: Cell Motility and the Cytoskeleton. 7. 97-109 (1987)
• [文献書誌] Yukihisa Hamaguchi,Masaru Toriyama,Hikoichi Sakai, & Yukio Hiramoto: Cell.Structure and Function. 12. 43-52 (1987)
• [文献書誌] Susumu Kotani, Hiromu Murofushi, Shohei Maekawa, Hiroyuki Aizawa, Kazuhiko. Kaji, & Hikoichi Sakai: Cell Struction and Function. 12. 1-9 (1987)
• [文献書誌] Hiroyuki Aizawa, Hiromu Murofushi, Susumu Kotani, Shin-ichi Hisanaga, Nobutaka Hirokawa, & Hikoichi Sakai: The Journal of Biological Chemistry. 222. 3782-3787 (1987)
• [文献書誌] M.Toriyama,K.Ohta,S.Endo, & H.Sakai: Cell Motility and the Cytoskeleton. (1988)
• [文献書誌] Kunihiro Ohta, Masaru Toriyama, Yukihisa Hamaguchi, Shohei Maekawa, Sachiko Endo, & Hikoichi Sakai: Protoplasma. (1988)
• [文献書誌] Kunihiro Ohta, Masaru Toriyama, Sachiko Endo, & Hikoichi Sakai: Cell Motility and the Cytoskeleton. (1988)
• [文献書誌] Susumu Kotani, Hiromu Murofushi, Shohei Maekawa, Hiroyuki Aizawa, & Hikoichi Sakai: Journal of Biological Chemistry. (1988)