1.組織細胞クローンの分化能、分化転換については、両生類淋巴芽細胞及び色素胞、哺乳類及び鳥類松果体細胞、哺乳類副腎髄質細胞などのほか、とりわけニワトリ胚色素上皮細胞で研究が進展した。前年までに水晶体細胞で特異的に発現されるδ-クリスタリン遺伝子の分化転換過程における転写様式が明らかにされたが、色素上皮細胞に特異的なメラノソーム構成蛋白質遺伝子のクローン化にも成功し、色素上皮細胞の分化転換過程におけるこの遺伝子の発現様式についても重要な知見が得られた。また、分化転換を調節する細胞環境因子について、培養液に添加することで色素上皮細胞の脱分化と分化転換とを格段に促進するヒアルロニダーゼの分析から、この酵素のフラクションに有望な調節因子の含まれていることが示唆された。一方、同細胞の多能的脱分化状態においては、2種の細胞膜糖蛋白質が特異的に発現することも明らかにされ、少くとも色素上皮細胞の分化転換についてはその調節機構の分子的基礎が確立された。また、一定の細胞組成を以って構築される組織において、異種細胞相互間の分化転換がその組織の細胞組成を一定化するという重要な発見が細胞性粘菌の子実体形成の解析を通じてなされた。 2.多細胞体制の形成機構の研究にきわめて有用な実験系として、上記の各細胞種の分化転換系のほかに、両生類のキメラ個体による解析が進み、初期胚細胞の発生能と細胞系譜を明らかにするためのシステムが完成した。また、鳥類胚について細胞分化とカップルしない形態形成を成立させる有効な器官培養実験系が完成した。 3.高等植物については、タバコ不定胚による個体形成誘導の過程とその調節機構の概要が明らかにされると共に、植物細胞の特異的産物を多量に生産させるためのプロトプラスト融合体培養による技術開発が進められ、応用への基礎が確立された。
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