多細胞の体制の成立を可能にするような、多細胞生物に固有な細胞の性質を明らかにしつつ、細胞間の相互作用の分子的な背景を明らかにして、細胞社会のもつ特徴を知り、さらにはその形質の実験的操作の可能性を探る目的で、特定研究「多細胞体制の形成機構」が昭58年度からスタートし、昭60年度はその最終年度に当っていた。本研究組織は、この特定研究の3年間のとりまとめに意を注ぎ、以下のような成果を挙げることができた。 (1) 3年間のとりまとめの意図で、本特定研究の全組織に属する研究者、62名が一堂に会して研究発表を行ない、相互評価を行なうための集会を主催した。研究の範囲は広く、かつ各研究者によって取扱う生物材料、実験システムは非常に多様であるが、過去の研究の進展によって、分散・特殊化の方向ではなく、総合的に共通した基礎を見玉し得たことは大きな成果であった。それは、多細胞体制の形成という極めて高次な生物現象が、遺伝子発現という見地から理解可能であるという見通しを開したことである。 (2) 公開講演会、組織内の小研究集会、成果の刊行を行ない、本特定研究の成果を組織内外に発表した。 (3) いくつかの研究者をオルガナイズして、特定研究全体の基幹をなす共同実験を行なった。取上げた問題は、多細胞体制内で組織特異的な遺伝子の発現が、一定組織以外で抑制される要因を知ることである。また、多細胞体制の細胞分化の特徴である分化転換の機構を遺伝子レベルで知ろうとした。いずれも、特に脊椎動物のレンズの分化を材料とし、遺伝子組換えと胚操作の方法を組合せた実験を行なった。その結果 胚発生における組織特異的遺伝子の発現が、細胞間相互作用によって抑制されることを示した。
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