生体因子による多細胞体制の形成の制御の問題は、最終的には一個体オーダーで種々の要因が複雑に組み合わさり、微妙に調整されている機構を明らかにすることであるべきであるが、国の内外におけるこの方面の研究のレベルはまだそれと取り組める程には至っていない。従ってこの三年の目的は各班員が最も得意とする部分の研究においた。その結果三年間にはかなり大きな進歩がみられた。 本年度については、小沢は、細胞に鉄を与えるトランスフェリンの筋細胞の成長促進作用は、鉄が最終的にはRNAポリメラーゼに必要とされることを示した。これは生体因子の生理作用を分子レベルで明確にした数少い例である。松田は、骨格筋に由来する成長因子の研究を行い、FGF様因子がトランスフェリンと共存することを示しその生物学的な動向を探った。長浜はサケ科の魚の生殖巣に於けるステロイドホルモンの生成機序を研究し、精巣へゴナドトロピンが作用した場合、体細胞と生殖細胞とが関与する二細胞型モデルを提唱した。長井は、H-Y抗原に対する力価の高いモノクロナル抗体を作ろうと努めた。林はフィブロネクチン、ラミニンおよびビトロネクチンの研究を行って来たが、ラミニンの抗血清を作り細胞移動との関係を調べた。小幡は、脳に新しい蛋白を発見し、その発生における時間経過を調べた。神野は、心臓形成の初期に現われるペースメーカーが発生と共に安定化する現象を研究しそれに関与する要因を調べた。 増田はモヤシマメ芽生えにおけるジベレリンの熱ショック蛋白の生成に対する効果を調べた。桜井は植物の成長過程を決定している細胞壁の構築パターンの解析を行った。勝見は、ジベレリンの矮性トウモロコシの微小管配向への作用を調べた。今関は、オーキシンで調節され、エチレン合成に関与するACC合成酵素の精製を行った。
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