本研究は、生理的に重要な蛋白質について、細胞内での生合成調節機構、膜構造への組込み機構および細胞外への分泌の機構を組換えDNAの技術を駆使して明らかにすることを目的としている。以下60年度の実績を述べる。(1)二井は大腸菌を用い、【H^+】ATPaseの変異株を解析しサブユニットの分子集合に必須なアミノ酸残基を同定した。またαガラクトシド輸送蛋白の変異株を解析し、輸送反応に趣ける必須残基を同定した。(2)大村は小胞体膜蛋白としてのP450(M1とC21)、ミトコンドリア内膜蛋白質としてのP450(11β)のcDNAのクローニングを行ないアミノ酸配列を決定した。またミトコンドリアのプロセッシングプロテアーゼの解析を行なった。(3)松原はヒトガストリン遺伝子の解析を行ない構造を明らかにした。さらに膵に於て異所性にガストリンを産生する腫瘍ガストリノーマに於ける本遺伝子の活性化機構を明らかにした。(4)安楽は大腸菌呼吸鎖電子伝達系の各種チトクローム蛋白の膜蛋白としての特徴的な性状を明らかにし、各構造遺伝子のクローニングおよびDNA塩基配列の決定を行なった。(5)水島は大腸菌シグナルペプチダーゼ遺伝子を明らかにし、酵素蛋白質の詳細な性状を明らかにした。さらにin vitro膜透過系を作成し、蛋白質の膜透過機構を解析した。(6)香川はヒト【H^+】ATPaseβサブユニットcDNAをクローン化し塩基配列を決定し、さらにgenomi cDNAの配列を決定した。このクローン化したcDNAを用いβサブユニットのミトコンドリアへの輸送機構を明らかにした。(7)岡本はラットインスリノーマで特異的に発現している遺伝子を見出しその構造を決定した。さらにラットのpancreatic polypeptidemRNAとVIP/PHM-27遺伝子の構造を明らかにした。このように膜構造への組みこみと分泌機構に関して多くの先駆的知見が得られた。特にこれらの過程に関与する特異的な酵素が明らかになったこと、膜構造に組込まれるための構造が明らかになったことは大きな進歩である。
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