特定研究最終年度にあたり、過去2年間の研究で重要と認められた問題について集中的な野外調査・実験を行うとともに、論文と報告書(モノグラフシリーズ「動物・その適応戦略と社会」以下「」で示す)の作成に力を注いだ。主な成果は次の通りである。 1 社会性混虫類の社会構造とその進化 本来単独生活をするハナバチをアミ室内で社会性に転換させる世界最初の試みは成功し、同世代分業の起原と、真社会制進化におけるその意義に関する貴重なデータが得られた(坂上・前田「独居から不平等へ-ツヤハナバチとその仲間の生活」)。チビアシナガバチについては、その生活が母巣上での集団越冬、オスの早期羽化、ワーカーのメス卵産卵、多数の産卵メスの共存など、口殊な様相を示すことが判明し、本種が典型的な單女王制のアシナガバチと熱帯産の多女王制種とをつなぐ中間項であろうと推定された(伊藤「狩りバチの社会進化-協同的多雌性仮説の提唱」)。また昨年発見されたクチキゴキブリの特殊な社会構造については、本年度に、一夫一妻であること、親の保護が子の生存にとって必要であることが判明した。 2 昆虫および甲殻類の交尾戦略・繁殖戦略 トンボ類の交尾戦略については日本の全データをまとめ、外国の例と比較しつつ、交尾戦略変異の社会生態学的意義を明らかにすることができた(東・生方・椿「トンボの繁殖システムと社会構造」)。カニについては交尾戦略と採食戦略に大きな可能性があることがわかった。さらに南西諸島に特産する多数のサワガニ類の繁殖戦略を比較検討した結果、より炭水な環境への進出、ひいては陸上への進出にともない大卵少産へと進化することが推察された。
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