本研究課題は3つのプロジェクト研究から成り立っている。即ち(1)「Caチャンネル」プロジェクト(以下プロジェクトを略す)、(2)「膜リン脂質代謝応答」(3)「セカンドメッセンジャー」がそれである。本研究班員は、各自本来の研究を行うと共に、上述の3つのプロジェクトの何れかに参加し、新しい情報分子の検索に当ることになっている。 さて本年度の研究成果を見渡すと、予想外の速度で研究の進展が行われたことが認められる。(1)「Caチャンネル」については、生体電気信号総括班の援助を受けて、世界に先駆けて合成に成功した新しいCaチャンネル阻害剤を用いて、この毒がどのタイプのCaチャンネルに効くのかを調べた。その結果カエルの後根神経節細胞、カエル神経・筋接合部、ラット脳下垂体前葉細胞、シビレユイ電気器官などに存在するCaチャネルを低濃度で抑制したが、ラットクロマフィン細胞(PC12)、カエル筋紡鐘、カエル骨格筋T管、イカ巨大シナプスには無効であった。また繊毛虫スタイロニキアのCaチャンネルに対しては、判定不能であった。(2)「膜リン脂質代謝応答」についてはPC12細胞、ヒト腎ガン細胞、ショウジョウバエ視細胞などの種々の細胞応答に於て、イノシトールリン脂質代謝応答が、極めて重要であり、就中、ジグリセリドキナーゼ、ホスホリパーゼCの各酵素の情報伝達に於ける役割が鮮明になって来た。(3)「セカンドメッセンジャー」に於ては、イノシトール3リン酸のセカンドメッセンジャーとしての役割が世界的に認められて来ている中で、この分子は、細胞の遅い応答に寄与するのであって、早い電気的応答の主役ではないのではないかという説を提唱するに至った。またGタンパクの役割についても検討したが、結論は出ていない。この他個人的な見るべき成果としては、アフリカツメがエル卵におけるタウリン受容体(柳沢)、新しい神経ペプチド(藤田)、cAMPの産生を抑制するモノクローン抗体(黒田)の発見が挙げられる。
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