研究概要 |
鉱物結晶中での原子の拡散現象は地球内部における物質移動と変化のうちでは、もっとも微視的で基本的な過程である。本研究では単に造岩鉱物中の元素のバルク拡散係数を測定するというだけのアプローチでなく、従来研究の困難であった二,三の分野について重点的に研究を進めた。その1つは地球深部での物質移動に関連した、高圧下のマントル物質中での地球化学的に重要な元素の拡散係数を、高圧下でin situに強度データを測定し、精密化した結晶構造データより、コンピューターシミュレーションの手法を使って測定することを試みた。このためには拡散径路にそってポテンシャルエネルギー図をつくり、そのSaddle部の値より活性化エネルギーを求めることが必要である。この計算には反撥エネルギー項としてのイオン圧縮率が必要である。今年はこのイオン圧縮率の圧力依存性をみるためダイアモンドアンビルを用いた単結晶4軸自動回折計による高圧実験で、鉄カンラン石について140kbまで、ルチルについて80kbまでの精密構造を決定した。これよりイオン圧縮率はエネルギー最小化法(WMIN)で求め、その圧力依存性のないことを確かめ、また鉄カンラン石の拡散の活性化エネルギーの圧力変化より拡散の活性化体積を推定することに成功した。これらの情報は地球内部での固体流動を考えるのに役立つものである。 第2のテーマとして天然の鉱物における拡散に重要な影響を与える転位、小傾角粒角にそっての原子の高速拡散をしらべるため、カンラン石および石英の拡散実験に使用する試料の転位組織を試べた。今年購入したガタン社のイオンミリング装置により分析電顕観察用のイオン研磨した定方位の薄片試料を能率よく作成することができた。またコンピュターによる鉱物中の元素の拡散プロファイルよりその冷却速度を推定するプログラムの開発およびホタル石型構造を持つ結晶中でのイオン電導と拡散の関係に関する研究も行った。
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