研究概要 |
本研究は超伝導微粒子の特異な物性を応用し、断熱消磁によって微粒子中の原子核スピン系を超低温に冷却し、その秩序状態を実現することを目的として出発した。昨年度に核断熱消磁の本格的実験を開始し、スズとアルミニウム微粒子を作業物質にして実験を行ない、信号を観測したが、その後の実験の結果、これは周囲のプラスチック中の水素核によるものであることが判明した。スズ,アルミニウムのいずれの信号も見えないことから低磁場において予期しないエントロピーの増大があるのではないかという推論のもとに、磁場循環法を使って実際に低磁場での緩和を測定した。すなわち、高磁場中で緩和時間より充分長い時間待ち核磁気共鳴信号を検出した後磁場を低磁場Hfへ掃引し、一定時間後再び元の磁場にもどし共鳴信号を検出したところ、スズについてはHfが2mT以下で、アルミニウムについては約80mT以下で異常に早い緩和が見出された。スズについての緩和はスズ核スピンと液体中の【^3He】核スピンとの双極子相互作用によるものであると考えられる。またアルミニウムについては電気四重極能率による核スピン-スピン緩和時間の増大が原因であると推測される。このために所期の目的である核スピン秩序は残念ながら達成不可能であると結論するに至った。しかし発見した異常な緩和はそれら自体物理的に極めて新しくかつ重要な内容を含むため充分な研究成果であったと考える。 ステーションの整備は完了し、これを用いた二つの実験を行なった。アンダーソン局在の研究は中性子照射によって培償したSi:Pの電気伝導の温度依存性を測定し、金属=非金属転移にたいする補償の効果を調べた。アハラノフ・ボーム効果の実験は微小な筒状の金属の電気伝導が、筒を貫ぬく磁束に対してh/2eを周期として変動するのを、アルミニウムと金の試料で観測した。
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