研究概要 |
本研究は、生体の分子認識機構を学ぶ立場から、膜の興奮性に注目し、興奮性人工膜により分子認識を行うことをめざしている。昨年度は、各種の興奮性人工膜を用いて、研究をすすめた結果、これらの人工膜は、種々の化学物質を、電位振動の振動数・振巾・周波数変調度ならびに波形の情報に基づいて、認識できることを明らかにした。本年度も、このような研究を発展させたが、なかでも、興奮性薄膜の作製において、注目すべき成果が得られた。以下、その概略を記す。 生体系においては、神経興奮が膜内外のNa,Kイオン濃度差によって駆動されている。このような機能をもつ生体膜は、リン脂質の二分子層よりなる厚さ、百Å以下の薄膜である。そこで、私達は、3つの異なる方法で、リン脂質薄膜を製作した。すなわち、面積1m【m^2】程度の黒膜(BLM)、径数μmのピペットの先に固定化した二分子膜(ピペット・クランプ法)、およびLangmuir-Blodgett法によりミリポア膜上に移し取ったリン脂質薄膜(LB膜)の人工膜系を用いた。いずれの場合も、自発的な電位振動や、電気的ゆらぎが見い出された。さらに、これらの膜は、スイッチング・負性抵抗や記憶効果(ヒステリシス)などの機能をもつことも明らかになった。從来、生化学や生理学の分野では、膜の興奮には、チャネルタンパク質の存在が不可欠であると信じられてきた。今回の実験結果は、タンパク質が存在しなくても、リン脂質だけでも、興奮現象や、イオンチャネルの開閉が可能であることを意味しており、生命現象との関連においても興味深いと思われる。 上述した以外にも、合成高分子膜において、自発的な電位振動をおこすことができることを示した。これらの研究成果に立脚して、膜の興奮性を利用した、全く新しい型の、情報変換・認知システムを提案した。
|