圧縮荷重をうけて岩石内にマイクロクラックが発生、伸長および集積する過程、すなわちダイラタンシーが局所化する状況を可視化して観測し、これらのプロセスをコントロールする要因が何であるかを実験的に調べることは、地殻や岩盤内で生じる地震や山はねのメカニズムを解明するための重要な鍵となっている。そこで、放射線医療で革命をもたらしたX線CTのX線のかわりに超音波を利用することを試みる実験を行ったところ、超音波CTが非常に有効な方法であることがわかった。 本研究では、超音波CTにおける計測システムの改善を目指して、岩石の速度異方性を補正する方法、精度の高い再構成に必要な波形の計測法、内部破壊域の進展のリアルタイムの可視化などの開発研究を推進して、岩石破壊実験におけるより有効な超音波CT技術確立のための基礎実験を行った。 実験試料として用いた大島花崗岩には、成因にもとずく潜在クラックが配向している。この潜在クラックを通して浸潤して移動する水の動きを超音波CTによって観測する実験を行った。マイクロクラックの内部に水が入ってくると、超音波のパス中における空隙の水の占める割合が増すので、伝播速度は増加し、波動エネルギーは水に吸収されて振幅は減衰する。実験中30分毎に行った超音波の伝播速度および減衰係数の変化の分布の再構成結果は、いずれも水が岩石内で浸潤して移動していく様子をよくとらえていることがわかった。とりわけ、超音波の初動の振幅の変化が水の浸潤の様相とくに浸潤前線の移動をよくとらえているが、速度変化はこの浸潤前線の存在をとらえることはできていない。つまり、マイクロクラックの中が完全に水で飽和されるまで速度は変化しないのに対して、振幅の減衰は水が少量入りこむだけで敏感に影響をうけるようである。
|