研究概要 |
膜の機能発現におけるリン脂質極性基構造の特異的な役割、ならびに膜アセンブリーにおける各リン脂質の挙動の特異性を明らかにするため、大腸菌およびパン酵母の系で次の2方向の研究を行った。 大腸菌の主要膜リン脂質の一つカルジオリピンの生合成触媒酵素カルジオリピンシンターゼについて、その構造遺伝子と考えられるcLs遺伝子およびその周辺の2.5Kbpの塩基配列を決定し、DNA一次構造から諸解析を行った。配列上唯一可能なリーディングフレーム1,242bpが存在しており、このcLs遺伝子はオペロンの一員で、上流の新たに見出された遺伝子のプロモーターにより転写されること、およびcls遺伝子の発現にはこの上流遺伝子の飜訳が共役する必要があることが判明した。さらにプラスミド上でcls遺伝子の中央部に1.5kbのカナマイシン耐性遺伝子を挿入し、DNAポリメラーゼI温度感受性株の染色体相同部分と組み換え、cls遺伝子の完全欠損変異株の作成に成功した。この株はカルジオリピンシンターゼを欠くが、培地条件によっては野生株並みに生育できるので、大腸菌にとってcls遺伝子およびその産物は必須ではないと結論される。 一方、パン酵母の含窒素リン脂質de novo生合成の開始過程の酵素ホスファチジルセリンシンターゼの構造遺伝子PSSについても、その塩基配列を決定し、PSS遺伝子の両端を欠く断片を挿入した組み込みベクターおよびPSS遺伝子の大部分を他の遺伝子(LEU2)と置き換えたDNA断片それぞれを用い、染色体上のPSS遺伝子を完全破壊することができた。これら完全欠損株では、いずれもホスファチジルセリンおよび同シンターゼが検出されないが、エタノールアミンまたはコリンを培地に添加すると生育可能であった。これらの株の諸特性を解析し、酵母細胞におけるホスファチジルセリンの意義について多くの知見を得た。
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