研究概要 |
プロスタグランジン(PG)の示す多彩な作用の発現メカニズムを解明するため、本年度は、PGによる細胞増殖の阻害機構とトロンボキサン(TX)【A_2】による血小板の活性化機構に的を絞り、分子レベルで解析を行った。まず、増殖阻害機構については、トリチウム標識したPGを用い細胞とインキュベートし、その動態を解析した。その結果、1.【Δ^(12)】-PG【J_2】やPG【A_2】などの増殖抑制活性をもつシクロペンテノンPGは、細胞によって取り込まれ細胞内に蓄積するが、増殖抑制活性をもたないPG【D_2】やPG【E_2】では、このような取り込みが見られないこと。2.この取り込みの過程は、細胞膜上のキャリアーを介する能動輸送であること。3.細胞内へ取り込まれたPGは細胞質より核へ移行すること。4.細胞を前処置して取り込み能を変化させると、取り込み能と増殖抑制活性の間に相関がみられること。などを見出した。以上より、PGによる細胞増殖の抑制は、PGAやPGJなどの特定のPGが細胞に取り込まれ核に働くことが、その作用発現のメカニズムであると考えられる。従来、PG作用はすべて細胞膜上の受容体を介するとされていたが、今回の知見はこの定説に改変を迫るものである。一方、TX【A_2】による血小板の活性化機構については、これに関与すると考えられているTX【A_2】受容体の同定を行った。リガンドとしてTX【A_2】作用に培抗するONO-11120の水酸化体を【I^(125)】でラベルして用いた。結合実験の結果、1.このラベル化体(【I^(125)】-PTAOH)がヒト血小板に可逆的にかつ飽和的に結合すること。2.この結合が、他のTX【A_2】アナローグによって濃度依存性に置換されること。3.この結合の解離定数は約20n【M!_】で、結合部位数は血小板1個当り約2,300であること。などを見出した。以上の結果より、この結合は血小板上のTX【A_2】受容体を表わしており、TX【A_2】はここで同定された受容体を介してその作用を発揮しているものと結論された。
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