細胞表面や細胞間マトリックスにおける主要蛋白質の一種であるフィブロネクチン(FN)は細胞の接着性に関与すると考えられている。私達は、ラットの上皮性培養細胞BRLをラウス肉腫ウィルスで形質転換すると、BRLの細胞表面に多量に存在するFNがほぼ完全に消失すること、また、形質転換細胞(RSV-BRL)は基質として反応溶液に加えたFNを強く分解するプロテアーゼ(FN分解酵素)を細胞外に分泌することをすでに明らかにした。本年度は、このFN分解酵素の性質と作用についてさらに検討を加えた。 RSV-BRLを培養した無血清培養液中のFN分解酵素活性はEDTAによって阻害され、逆にチオールプロテアーゼ阻害剤であるp-クロロマーキュリ安息香酸(PCMB)によって強く活性化された。したがって、本酵素はコラゲナーゼ用の金属プロテアーゼであると考えられる。一方、本酵素の濃縮液をBRL細胞の培養液に添加すると、BRLの細胞表面FN量が低下するとともに、BRLの細胞間接着力が低下し、RSV-BRL様の細胞形態を禾した。これらの結果から、FN分解酵素の大部分は不活性な状態でRSV-BRLから分泌され、また、本酵素はRSV-BRLにおける細胞表面FNの消失や細胞間接着力の低下に関係すると考えられる。(【^3H】)-diisopropyl fluoro phosphate(DFP)を用いた標識実験によって、RSV-BRLは多量のセリンプロテアーゼ(分子量12万)を分泌することが明らかになった。けれども、このセリンプロテアーゼはRSV-BRLが同時に分泌するプロテアーゼ阻害物質の作用によって不活性な状態にあることが分った。最近、コラゲナーゼ前駆体がセリンプロテアーゼによって活性化されることが報告されている。したがって、FN分解酵素の活性が上記のセリンプロテアーゼおよびプロテアーゼ阻害物質によって直接的あるいは間接的に調節されている可能性が考えられる。
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