ジョロウグモ毒腺中に見出された神経毒素JSTXは、グルタメイトレセプターを特異的かつ非可逆的に阻害することが明らかになった。毒素の精製は、ゲル瀘過法、HPLC法、NMR法、GC-MS法等を用いて進めこの結果分子量500〜600の耐熱性の物質が得られ、基本骨格はペプタイドであることがわった。 精製したJSTXを用いグルタメイトレセプターの阻害機構と作用部位についてしらべた。イセエビ歩脚の伸張筋シナプスを用い単一の支配神経を刺激して興奮性シナプス後電流(EPSC)を記録しJSTX作用下の変化を観察した。EPSCの振巾は膜電位を過分極すると増大するが、低濃度のJSTXを与え、EPSCの振巾を減少させた状態で、膜電位を過分極すると振巾は直線的に増大する。種々の濃度の毒素を与えて得られた電圧電流関係は直線性を示し、各直線の外挿の電位軸上の交点すなわちEPSCの平衡電位は正常液中の場合と変わらなかった。この結果はJSTXが膜電位に非依存的であること、またJSTXがシナプス膜の起電力には影響を与えないことを示している。次ぎにEPSCの下降相の時間経過について検討した。グルタミン酸シナプスの場合正常液中ではEPSCの時定数は膜電位の過分極に従って減少するが、JSTX存在下でもこの傾向は同様であった。またこの下降相の振巾は単相性の指数凾数的減衰を示し、JSTXの存在下でも二相性の変化は見られなかった。このことはJSTXの作用部位がレセプター・イオンチャネル複合体のうち電流ゲートとは離れた場所にあることを示している。
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