〔目的〕 現在血栓症の予防あるいは治療にはウロキナーゼ等の血中投与が行なわれているが、他の有効な手段として、血栓溶解の引き金となるプラスミノゲンアクチベータ(PA)の血管内皮細胞での産生能を高める方法が考えられる。本研究は血栓症の有効な予防・治療剤となる物質を食物中より発見することを目的とし、培養血管内皮細胞を用いた線溶系の亢進、すなわちPAの産生を促進させる物質を探索した。 〔成果〕 59年度の研究において葉緑中に含まれるシトステロールを血管内皮細胞培養液中に添加すると、細胞内及び細胞外PA活性が増進することを述べた。60年度は更に多くのステロールについて検討した結果、褐藻中に含まれるフコステロールについても同様の効果があることを発見した。この現象はタンパク合成阻害剤を用いた実験より、両ステロールが細胞内でのPA合成を促進した為であることを証明した。これらのステロールに関する基礎研究に加え新しい線溶系亢進物質を探索した結果、ビタミンA(レチノール)及びビタミンC(アスコルビン酸)に亢進効果のあることを見出した。更に興味のあることは、ビタミンA及びビタミンCの両者を内皮細胞培養液に同時に添加すると、細胞外PA活性は相乗的に増大する。ビタミンCのみの添加によっては約1.5倍に、またビタミンAのみの添加では約8倍に増大するが、ビタミンAとCの同時添加ではPA活性は40倍に増大する。他のビタミンの組み合わせでは相乗効果はあらわれない。このPA産生はタンパク質合成阻害剤、シクロヘキシミドの添加によって停止する。アスコルビン酸は抗壊血病因子、ビタミンAは抗夜盲症因子とその生理作用の重要性は今更述べるまでもないが、ビタミンAとビタミンCの共存による新しい生理機能の発現は興味深い。
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