慢性型スフィンゴリピドーシスの症例として、本研究では主として、成人型【G_(M1)】-ガングリオシドーシスの患者の剖検脳の病理組織学的検索と病変部位の生化学的分析を行った。この成人型では、基底核周辺のニューロンに胞体の膨化が認められ、化学分析の結果は、とくに、被殻や尾状核に【G_(M1)】及びAsialo【G_(M1)】の蓄積が認められた。単純脂貭や燐脂貭組成には殆ど異常は認められなかった。また、ミエリン脂貭として主要なガラクトセレブロシドやスルファチドにも著しい変化は認められず、病理所見と共に、本症脳は脱髄を生ずるまでには至っていないことが明らかにされた。この点は、【G_(M1)】-ガングリオシドーシスの幼児型及び若年型と明らかに異なるところである。しかしながら、【G_(M1)】とAsialo【G_(M1)】の代謝異常と関連して、中性糖脂貭組成に、正常成人脳では見られない点がまた注目された。本症に認められるリソソーム分解酵素の一つである酸性β-ガラクトシダーゼの活性低下はラクトシルセラミドの分解にも影響して、この剖検脳に増量していることが認められた。また、脳には極めて珍らしいパラグロボシドも若干存在することが認められ、このものもβ-ガラクトシダーゼ活性低下と関連するものと思われた。他方、本症脳では、ガラクトサイコシンもガラクトセレブロシドも増量は見られなかった。これらに作用するβ-ガラクトシダーゼは本症では異常ないものと思われ、欠損β-ガラクトシダーゼとは明らかに違っている。本症例の診断確定後、成人型【G_(M1)】-ガングリオシドーシスは内視鏡的直腸生検の組織化学、超微形態学的検索でMeissner神経叢のニューロンの胞体に【G_(M1)】の蓄積を思わせるオスミウム好性ラメラ小体が多数認められ、また、末梢血細胞のリソソームのβ-ガラクトシダーゼ活性低下によって診断がつけられるようになって、長野県下だけでも成人型患者の3例が見出されていることは注目すべきことである。
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