出生後24時間以内の雌ラットの円側視束前野(POA)を内径0.7mmのステンレスチューブで打抜き、その脳組織片を2-3ヶ月齢と老齢ラットの第3脳室内に移植した。移植時の新生ラットのPOAの神経網は未発達で、シナプス数は極めて少く、その構造も未熟であったが、移植片は宿主脳内で成長し、シナプス数は新生ラットのPOAの約10倍に達し、そのうちで幹シナプスは7倍、棘シナプスは20倍に増加した。老齢ラットの第3脳室に新生ラットのPOAを移植した場合でも、移植片のニューロンやニューロピルの成長はいちじるしく、シナプス数も成熟ラットの場合とほとんど有意差がないほど増加した。このことは、老齢ラットの脳内は移植環境として2-3ヶ月齢ラットとさほど差がないことを示している。また、移植組織中のシナプス数が著しく増加したことは、移植組織中で多数の神経回路の新生が起ったことを示している。現在のところ、移植片由来のものと、宿主由来のものとを区別する有効な手段はない。そこで、移植片中のニューロンに特異的なマーカーをさがす目的で、多数のニューロペプチドやチロシン水酸化酵素などの免疫組織化学を用いて、陽性ニューロンの細胞体や軸索を検索した。その結果、視床下部の内側底部を移植した場合、移植後2ヶ月して、β-エンドルフィン、met-エンケファリン、P物質、ニューロペプチドYなどが陽性で、また、チロシン水酸化酵素陽性の細胞体や軸索が多数認められた。そして、一部は宿主組織へのびているのがみとめられた。これらのマーカーを用いて、移植組織のニューロンの成長と神経回路網形成に対する受容体の阻害剤や刺激剤の効果を検討している。脳移植はin vivoの培養系として、移植ニューロンの成長と神経回路形成に対する薬物の効果を見るのに役立つと思われる
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