我々はすでに細胞融合の実験を通してマウス赤芽性白血病細胞(フレンド細胞)のin vitroでの分化を伴う脱癌化が細胞内の質的に異なる2つの反応の共役的作用によってひきおこされることを報告した。この2つの反応の中、第1の反応はDNA複製(又は細胞分裂サイクル)に関連する反応で、DNA複製の停止又はその強制的干渉によって誘導され、de novoの蛋白質合成を伴う種特異性をもたない反応でありtransに働きうる因子の存在が推定された。第2の反応は細胞外より膜に与えられたシグナルに由来する細胞内反応でその反応の誘導はフレンド細胞においてはTPAによって阻害される。細胞質融合の結果からこのシグナルは一旦核に到達し、更に何らかのtransに働きうる物質が細胞質に蓄積することが分った。この反応はフレンど細胞に特異的である。 以上のような実験結果をもとに本年度における研究成果は以下の通りであった。(1)第1の反応に関与する細胞内因子(DI-【I】)の更に一層の精製とそのフレンド細胞の脱癌における関与の証明を行なった。(2)DI-【I】のマウス・フレンド細胞以外の脱癌化反応における関与を実証した。(3)第1の反応と共役して働く第2の反応に関与する細胞内因子(DI-【II】)の精製を行なった。(4)フレンド細胞においてTPAによって誘導される新しい核蛋白の脱癌化における役割と脱癌化のプロセスにおけるc-myc蛋白質の役割を検討した。
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