EGFレセプター(EGFR)はプロトオンコジンc-erbBと相同であることが、昨年来の研究で次々と明らかにされた。我々は特に体細胞遺伝学的なアプローチで扁平上皮癌由来のA431細胞におけるEGFレセプター過剰産生がEGFR/c-erbB遺伝子の増幅に起因し、EGFレセプターの断片の異常産生にも第7染色体の転座が関与していることを示した。さらに、数種の扁平上皮癌細胞株で同様のEGFレセプターの過剰産生と遺伝子増幅を見出した。一方、手術時に得られた食道や肺の扁平上皮癌の組織では、高頻度でEGFレセプターの過剰産生が見られた。癌組織でのEGFレセプターの増加は、多くの場合遺伝子増幅に起因していたが、遺伝子増幅やレセプターmRNAの増加の見られない症例も新たに見出された。類似の現象を示す膵臓癌由来の細胞株、UCVA-1に関してEGFレセプターの生合成と分解速度を詳細に解析した結果、EGFレセプターの代謝回転が著しく遅くなることによって細胞表面のレセプターが増加するという新しいメカニズムの存在が明らかになった。EGFレセプターを過剰に産生する細胞はEGFによって却って増殖阻害を受ける。このような現象を解析するために、A431細胞とその変異株B7の膜標品を用いてリン酸化反応を調べた結果、A431細胞ではレセプター蛋白質の著しいリン酸化とそれに伴なう標的分子のリン酸化が先行する結果、ホスファチジルイノシトールのリン酸化が低下することが判明した。すなわち、レセプター過剰産生細胞では、リン脂質代謝の調節の乱れが要因となってEGFによる増殖阻害が起ると結論された。一方、このような癌細胞をヌードマウスに移植すると、ArzetミニポンプでEGFを供給することによって腫瘍は増大し癌組織での状況を再現した。in vivoとin vitroでの癌細胞のEGFに対する応答の差異を生ずる機構を今後追究していく。
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