短周期超格子の電子物性を探索し、解明するために、本年は主として(1) GaAs-AlAsおよびGaAlAs超薄膜ヘテロ構造の界面構造を原子スケールで評価し、界面凹凸を除去する方策として分子線の供給を中断することの有効性と限界とを明らかにした。さらに(2)厚さ5乃至11原子層の極薄膜における共鳴トンネル効果を理論的・実験的に調べて、室温で高性能を示すダイオードの開発に世界に先駆けて成功した他、(3) 短周期超格子を障壁に用いた量子井戸の量子準位の特質を明らかにした。以下にその概要を記す。 通常の分子線エピタキシー(MBE)法で【G_2】【A_3】-(AlGa)As量ス井戸を作製すると、ヘテロ界面には一原子層ほどの 凹凸が不可避的に形成され、量子井戸からの螢光線に広がりが生じるなど様々な問題を惹き起こす。特に、10原子層以下の極薄膜を用いるデバイスには有害であって、その解明・除去が待たれていた。本研究では、界面形成の際にGa又はAl分子線の供給を数十秒間中断して、表面にある原子の面に沿う拡散を促進することにより、表面凹凸が、従来の1/4以下に減少すること、その平坦化は主としてGaAs表面で生じており、AlGaAs(又はAlAs)表面では拡散効果が小さいため中断の如向に拘らず、電子波の波長以下のサザ波状の擬似平坦面であることが示された。(文献(1)(2)) 超薄膜GaAsを2枚のAlAsトンネル障壁でサンドイッチ化した構造において共鳴トンネル成分を増大し、非共鳴成分を抑制する設計論を確立し、これに基づいでダイオードを試作したところ、8原子層の障壁の時、負性抵抗のピーク/バレー比が室温で 2.3、77Kで10にも達することが判明した。さらに、3原子層のGaAsと3原子層の【Al_(0.4)】【Ga_(0.6)】Asとを積層化した擬似混晶では、その電子状態はかならずしもAl組成20%の混晶のそれとは等しくなく 特にGaAs量子井戸の障壁として用いる場合にはAl組成26%の混晶との等価性が示された。(文献(3)(4)(5))
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