当教室で発見されたキョートルフィン及びネオキョートルフィンをはじめとする多くのニューロペプチドはin vivoで数多くの薬理作用を示すことが報告されているが、それらの本来の生理的役割は充分明らかにされていない。最近では、一般にニューロペプチドは従来のアミン系のものをはじめとする古典的神経伝達物質と共存しており、その作用の調節因子的な役割を果しているとされている。本研究では、ニューロペプチドとしてキョートルフィンをとりあげ、神経終末における【Ca^(2+)】動態に及ぼす影響を調べ、生理的な神経調節機構の一つを明らかにした。【◯!1】キョートルフィンは、ラット脳スライスにおける、Quin【II】(細胞内【Ca^(2+)】プローブ胃螢光強度を用量依存性に増強した。【◯!2】対照的に、膜結合性【Ca^(2+)】プローブのクロルテトラサイクリン螢光強度を減少させた。同様の作用は脳シナプトゾームを用いても認められた。【◯!3】【^(45)Ca^(2+)】のシナプトゾームへの取り込み実験において、キョートルフィンは細胞内への【^(45)Ca^(2+)】の取り込みを有意に増大させた。この作用は、膜結合性の【^(45)Ca^(2+)】を除かない場合に認められなかった。【◯!4】以上の作用は、キョートルフィンの酵素分解に抵抗を示す誘導体【◯!1】-キョートルフィンについても認められた。【◯!5】ラット脳シナプトゾームをD-キョートルフィンとインキュベートすると、メチオニン、エンケファリンが遊離したが、外液カルシウムに対して非依存的であった。以上の知見から、キョートルフィン及びD-キョートルフィンは、細胞膜結合性の【Ca^(2+)】を細胞質側に動員することにより、メチオニン、エンケファリンなどの伝達物質の遊離をひきおこすものと考えられた。また生理的にも遊離されたキョートルフィンは、このメカニズムを介して他の物質の遊離を促進している可能性が示唆された。
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