研究概要 |
腎臓におけるビタミンD(VD)の代謝調節は、生体Caの恒常性維持に中心的役割を果たしている。筆者は、ラット腎単離尿細管を用いてVD代謝酵素活性およびその調節機序について検討し次の結果を得た。1.近位曲尿細管には副甲状腺ホルモン(PTH)感受性の1-水酸化酵素が局在し、PTHは、C-AMPを介して作用を発現することならびにこのときインシュリンの存在が必要である。2.近位直尿細管にはカルシトニン(CT)感受性の1-水酸化酵素が局在し、CTの作用はC-AMPを介さない。また、腎の初代培養細胞を用いて、上記のCTの作用は尿細管に対する直接作用であること、プロスタグランジンを介さないことを明らかにした。一方、ヒト本態性高血圧症およびその実験的モデルとされる高血圧自然発症ラット(SHR)において、細胞内外のCa代謝異常が知られている。筆者は高血圧におけるVD代謝異常を疑い、SHRおよび正常血圧の対照としてWistar Kyoto(WKY)ラットを用いて検討し次の結果を得た。1.血清1,25【(OH)_2】D値はSHRにおいても正常であった。2.外因性のPTHによる1,25-【(OH)_2】Dの上昇は、高血圧発症前(4週令)のSHRでは正常であったが、発症後(12週令)のSHRでは著明に低下していた。3.腎の1-水酸化酵素活性の外因性PTHに対する反応性の低下が12週令のSHRで認められた。4.1-水酸化酵素の基礎値は、高血圧発症の有無にかかわらず、SHRで高かった。発症後における本酵素活性の高値は、PTHの分泌過剰によるものであり、2.および3.の結果はdown regulationにより部分的には説明される。5.副甲状腺摘出を行ってPTHの分泌を除くと、1-水酸化酵素活性は高血圧発症後のSHRでは大部分消失するが、発症前では、摘出を行わないWKYの酵素活性の50%程度残存し、さらに甲状腺も摘出することにより大部分消失した。従って、甲状腺由来の体液性因子の関与が特に発症前のSHRで示唆される。また、SHRにおいては、高血圧発症前から1,25【(OH)_2】Dの分解が亢進していることが示唆される。
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