ニワトリのクリスタリン遺伝子は、各組織の細胞に等しく存在するにもかかわらず、眼の水晶体細胞でのみ特異的に発現している。このことは、クリスタリン遺伝子の高次構造が組織によって異なることを示唆している。このような観点も含めて、クリスタリン遺伝子の組織特異的発現の機構を探るために実験を組み立て、以下に述べる結果を得た。ニワトリのクリスタリン遺伝子をマウスの培養細胞に顕微注入し、その発現を解析するというヘテロ発現系における解析から、クリスタリン遺伝子の4′上流域に、組織特異的発現に必要な調節領域のあること、またこのDNA領域はエンハンサー様活性をもつことを明らかにした。ヘテロ発現系が必らずしも、この遺伝子のニワトリ水晶体細胞での発現の調節機構を反映していないかも知れないので、ニワトリの水晶体培養細胞へトランスフュクション法で導入して発現を解析した。ヘテロ系での解析結果と同じように、5′上流領域に組織特異的発現に必要な調節領域の存在が明らかになったが、DNA領域の位置は若干異なった。この領域を含むDNA断片を遺伝子と同時に細胞に導入し、競合実験を行なったところ発現は抑制された。他のDNA断片では、この効果はなかった。以上の結果は、水晶体細胞の核中には、調節領域に結合する因子が特異的に存在することを示唆しているので、この因子の同定を行なう実験を試みた。水晶体細胞の核抽出物を電気泳動で分離し、標識したDNA断片との結合を試みるフィルター結合実験を行なったところ、調節領域と結合する分子量125Kのタンパク因子の存在が明らかになった。他の組織の核抽出物中にはこの因子は存在しなかった。
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