目的:脳のシナプス結合の可塑性は、長期の可塑性の代表的機構として確立された。我々は大脳皮質-赤核系で赤核内に胞体を有する小型のGABA作動性ニューロンが皮質から入力を受け、赤核脊髄路細胞に抑制をかける回路を形成していることを明らかにした。本研究の目的はネコの赤核内のGABA作動性ニューロンを材料として、これが可塑性を有するか否かを明らかにすることである。 方法:実験にはネコを用い、中位核を一側性に吸引し11日〜175日間飼育したのち固定を行なった。固定後、赤核を含む領域を前額面で50〜100μmの厚さに切り出した。これにGAD抗血清を反応させ、PAP法によって切片の処理を行なったのち、樹脂に包埋して光学顕微鏡による観察を行なった。また、一部の切片については、さらに超薄切片を作製して電子顕微鏡を用いて観察を行なった。 結果:小脳破壊後20日以上飼育したネコにおいて、実験側(中位核破壊の反対側)の赤核ニューロン細胞体上におけるGAD陽性シナプス終末の密度が対照側に比べて著しく増加していることが観察された。画像解析法を用いた定量的解析から、この変化は統計的に有意であることがわかった。破壊後11日目のネコでは変化がみられず、15日目のネコでは一部に変化がみられたのみであった。電子顕微鏡による観察によって、GAD陽性終末は例外なく赤核ニューロン細胞体上に対称型シナプス結合を作っていることが明らかになったが、中位核破壊ネコについて、赤核ニューロン細胞体上に対称型シナプス結合を作る終末の密度の変化を調べたところ、実験側で有意な増加がみられた。 考察:中位核破壊後の実験側赤核ニューロン細胞体上におけるGAD陽性シナプス終末の増加は、赤核内GABA作動性ニューロンの可塑的変化の生じたことを示している。対称型シナプス終末の密度の増加は、GABA作動性抑制性シナプス終末が新しく形成されたことを示している。
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